錦繍録

書評とか.

不安感とストレスの高い人は、育児を始めてから出会うさまざまな育児懸念が、その場で解消しないでつぎつぎと持ち越される人に多い。|親子ストレス-少子社会の「育ちと育て」を考える-/汐見稔幸

幼児教育分野では著名な汐見先生の十数年前の著書。

”育児”は、読んで字の如く「児(子)を育てる」 と書くが、それは一体「誰が(どんな存在が)育てる」のだろう。

親?もちろん、そうだ。

でも、親の存在だけで子は育つだろうか?答えは、NO。

 

本著のサブタイトル担っている「育ちと育て」というテーマで読み進めていくと、これから(といっても、本著を著した平成12年とは時代背景や状況が結構異なっているが)の育児のあり方や社会のあるべき姿の議論のスタート地点を提起してくれている。

 

「育て」を側面支援する施策を充実させる。

子育ての社会的支援が子育ての肩代わりではなくて、親の育児への「側面支援」になること必要を本著では説明している。

親(特に母親)が、子育てをする上での不安や焦り、初めてのことに対応できないことへの苛立ちなどをどういう風に解消、受容されていくかが、子育てにまつわるストレスを軽減、昇華していくキーになる。

社会全体で見た時に、必要性が特に説かれていることが「側面支援する施策」。

 

カナダ・トロント子育て支援冊子「Nobody's Perfect」、プレイグループ、ドロップインセンターの事例は有名な事例で、本著でも紹介されている。

対照的な例として、日本での保育所の開所時間延長と乳児保育の拡充はかえって、子どもの健全な育ちを妨げていると示している。 

日本の子育て支援のながれ(簡単に)。

日本でも、現在行われている子育て支援施策は多岐にわたる。

最初は、平成6年のエンゼルプランを皮切りに。内容としては、共働き家族の支援と保育所機能の拡充を進めることで、出生率が高まるのでは?と進めていった。が、出生率は下降の一途。

平成11年に新エンゼルプランへ移行。「働き方」の見直し、に視点が切り替わる。が、改善のめどは立たず。

平成14年 「少子化対策プラスワン」を打つ。

平成15年 少子化対策推進本部が設置され、「少子化社会基本法」の制定。

と、それに伴う各方針が定めていく・・

現在は、「次世代育成支援」「子ども・子育てビジョン」などの方針があり、10年前に比べて、質・量ともに拡充されている印象は有る。

決して日本の現在の少子化対策子育て支援に明らかな欠落が有るわけではないと思うんだけれども、仮説の妥当性が曖昧だったり、施策の打ちどころが甘かったりするのではないのだろうか。(さきほどの、保育所の開所時間延長の話とか)

参考:

◎「子ども・子育てビジョン」 

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/vision-gaiyou.pdf

トロント子育て支援日本教材文化研究財団ウェブサイト)

公益財団法人 日本教材文化研究財団|公益財団法人 日本教材文化研究財団|刊行物|研究紀要|第37号:特集 乳幼児期の探究II|日本の子育て支援が抱える課題について

 

 

父親の担う役割と、社会の育児能力が鍵。

冒頭の問いだが、

「親の存在だけで子は育つだろうか?」

僕の考えは、親と、親を取り巻く社会全体の相互作用で、子どもが育ち、育てられていく。

また、子の育ちによって、親も親として育っていく。

 

「子ども・子育てビジョン」でも、明記されているが、「社会全体で子育てを支える」ことがキーなのは間違いない。子育てする親が孤立的になる現状が本著では虐待ケースを事例にしてピックアップされているが、そこには父親の担う役割や存在感が重要視されている。

父親の母親に対する支え、父親を支える社会や会社・環境。

母親の周りの友達、母親の育児相談、安心感、頼ることができる社会資源の多さや多様さ。

これらをどうやって社会全体に総合的、多層的に仕組んでいくか、か。

 

また、子育てに対する寛容さ、不安があっても解消できる存在、愚痴を言える環境。この育ちに対しての肯定感もとても大事だし、適切な親教育・啓発、社会資源を活用する知識と情報へのアクセシビリティも隠れた重要因子と考えている。

 

そう考えると、

「育ての側面支援の具体的な施策を考える際には、ソーシャルインパクトを鑑みて検討することはもちろん、それ以上に、発達・育ちの観点からも十分に検討されるべき」

ということを強く感じた。

 

 

 参考図書:

本著はいかんせん新エンゼルプランの前の本。状況も結構変わっている(それだけ、緊急性のあるトピック!)。最近読んだ本の中では、下記がオススメです。