「イノベーターは、育てられる。」|未来のイノベーターはどう育つのか/トニー・ワグナー
教育に携わっているため、教育論や手法・教育哲学まで、興味の幅は広がった。
興味の幅が広がるのに比例して周辺分野を読みあさっている。
その中でも最近の個人的なヒットはこれ。
英語タイトルはズバリ、
「Creating Innovators -The Makeing of Young People Who Will Change the World」
筆者がフォーカスしているのはSTEM教育を受けたイノベーターと、社会的課題を解決するイノベーターの2タイプ。
STEM=Science Technology Engineering Mathmatics(科学、技術、工学、数学)の略。
この2タイプのイノベーターの具体的な幼少期の過ごし方がとてもリアルで実践にヒントを与えてくれる詳細な描写が豊富。
イノベーターは、育てられる。
最初に、「イノベーターの必要な資質」として、
フラット化する世界で仕事、生涯の学習、そして市民生活に求められる新しいスキルを「7つのサバイバル術」と名づけた。
1,批判的思考と問題解決能力
2,ネットワーク全体におけるコラボレーションと影響力によるリーダーシップ
3,敏捷性と適応力
4,イニシアチブと起業家精神
5,情報へのアクセス力と分析力
6,口頭と書面でのきちんとしたコミュニケーション力
7,好奇心と想像力
(中略)
しかしイノベーターに必要な資質を考えたとき、この7つのスキルだけでは不十分だと私は考えるようになった。たとえばイノベーターには、根気、実験する意欲、計算されたリスクを引き受ける能力、そして失敗への寛容性、さらには批判的思考だけでなく「デザイン思考」が不可欠だ。そこでイノベーターのスキルについて、いくつかの新しい考え方を紹介しよう。
(中略)
クリステンセンらは、独創的な人間かそうでないかは、関連付ける力、質問力、観察力、実験力、ネットワーク力という5つのスキルがあるかないで決まることを発見した。
・実行力…イノベーターは、質問力(疑問を投げかけること)によって現状を打破し、新たな可能性を検討する。また観察力によって、新しいやり方のヒントとなる些細な行動に目を向ける。さらに実験力によって新しいエクスペリエンスを執拗に試してその領域を探る。そしてさまざまなバックグラウンドの人とのネットワーキングを通じて、それまでとはまったく異なる視点を持つようになる。
・思考力…4つの行動パターンはみな、イノベーターが物事を関連付け、新しいインサイトを得る助けになる。
(中略)
これらを統合すると、成功するイノベーターに最も欠かせない資質の幾つかは次のようになる。
・好奇心。すなわち良い質問をする癖と、もっと深く理解したいという欲求。
・コラボレーション。これは自分とは非常に異なる見解や専門知識を持つ人の話に耳を傾け、他人から学ぶことから始まる。
・関連付けまたは統合的思考。
・行動志向と実験志向。
と、ちょっと長いけどひとまずの着地を表記している。
そして、これらはすべて「教えられる」「育てられる」スキルである、というポイントが非常に重要。
正しい環境とチャンスを与えることでこれらは育つというのが、本書の重要な主張。そのために、各イノベーターの幼少期のインタビューの精緻さ・丹念さがこの本書の価値と言っても過言ではない。
「教育によって、閉めだされる」
「4歳時は絶えず質問をし、物事の仕組みについて首をひねっている。ところが6歳半くらいになると質問するのをやめる。なぜなら学校では、厄介な質問よりも正しい回答が歓迎されることを学ぶからだ。高校生にもなるとめったに知的好奇心を見せない。」
(中略)
「創造は、癖だ。問題は、学校がこれを悪い癖として扱うことがあることだ。」
国ごとの教育システムによっても、同じ日本でも自治体や首長、学校単位で差異はあるので、一概に言えない。けれども、このような捉え方をする事自体に強烈な違和感は感じない。
結局のところ、専門性・クリエイティブな思考力・モチベーションの3原則だ
専門性(知識)とクリエイティブな思考力(質問力、観察力、共感、コラボレーション・関連付け、実験力・行動力)に加えて、結局一番重きをおいていることが、「モチベーション」だということ。
そして、内的なモチベーション(外的モチベーションは、金銭的報酬とか)に深く関わる要素が、
【遊び】【情熱】【目的意識】
としている。
これらを、どのように生み出すか、デザインするかが、2章以降のパーソナルエピソードで丹念に描かれており、「なるほど!」と理解を深めることができた。
イノベーターの2タイプに共通することは
・親やメンター、教師などの存在が居て、3原則(とりわけモチベーションに関わる部分)をバランス、タイミングよく刺激してくれていること
・幅広い社会問題に対して高い意識と関心をもっているということ
・自分で学習し、自己表現し、ネットワーキングできるということ。
などなど、いくつかのケースで非常に強く共感する部分もあった。
「スキル」として捉え、どのように個にアプローチするか、はもちろんやるべきことだが、それと同じくらい教育サービスの提供者は、そのような個がある程度受容されて、伸ばせられる環境側を整えていくことがミッションになっていくだろう。
それは、公教育にとどまらない。