錦繍録

書評とか.

人間は、自分の心がこれと決めたことを正当化する理由を探す傾向があって、心が決めたことでも、後付で頭で決めたことのように思い込みたい生き物だから。|「きみたちはどう迷うか」/酒井穣

はじめて酒井穣氏の著書を読んだ。他にも読んでみたくなった。
今回の本は家の引っ越しのために本棚からすべての本を文字通り棚卸ししていた中にあった本。結論から言うと、「この時期に読んで本当によかった!」。

 

 

いくつかピックアップした読書メモがあるので、それは下記するとして、まずはタイトルの言葉。

 

人間は、自分の心がこれと決めたことを正当化する理由を探す傾向があって、心が決めたことでも、後付で頭で決めたことのように思い込みたい生き物だから。

これって、「選んだ道を正しくしていく」の発想と紙一重だなぁと思う。選んだ道を正しくしていく、と決め込んで道を歩んでいるそのプロセスがタイトルのように、”正当化”になっていることもあると思う。そして、正当化と正しくしていくのもはや、ニュアンスの違いと言ってもいいくらいの差異はどこにあるんだろう。

 

 

僕は、「積極的選択」がキーワードだと思う。説明する。

正当化は、「ほんとはAがよかったかもしれないけど、Bと決めたんだから、Bが正しい。そうだ、そうに決まってる。ほら、だって、こんなメリットがあるし、こんなメリットもあるし・・・」

 

正しくするは、「ほんとはAがよかったかもしれないけど、Bと決めたんだから、Bを信じていこう。そうだ、Bだとこんなメリットが有る。こんなデメリットもあるけれども、いまの自分にはBのほうが学びや成長になる。AよりもBがいい。」

 

こんなちがい。きちんと明確に分けていないぶぶんもあるけれども、
前者は思い込みたい無意識があるのに対して、後者は積極的・意識的にAを捨て去っている。加えて、AよりもBを選択する理由付けを頭でアトヅケしている。

 

頭で後付することは人間の性として自覚するとして、無意識的思い込みか積極的選択かは分岐後の成長曲線に影響すると直感的に思う。

 

 

以下、読書メモ。

キャリア開発、経営者目線、思考法、集中力とエネルギーというキーワードでめもりました。

 

A「自分が本当に問題だと感じていることには、何らかの怒りの感情があるはずだってことですね。そういう、自分が本気になれる問題を解決するためのスキルが何であるかを考えて、そうしたスキルを身につけられるような選択をすべきですね」

氏「そうすべきかどうかは、僕には断定できない。それに、特定の問題解決に求められるスキルが何であるかを判断するのは、とてもむずかしいことだと思う。でも、僕の場合は、そんなふうに自分のキャリアを考えてきたっていうのは事実かな」

⇒逆算思考が大事な一方で、断定・正解と思い込は危険。
先々を見つめて、方向性を常に検証して、でも目の前のこととの連続性を考えて・・・。「し続ける」態度を崩さずにいきたい。

 

 

「(中略)まずは、そういう自分の中の火種を、自分を超えた大きな問題に対する怒りとして認識すること。そして、その火種に着火するようにして生きることが、最終的に自分のキャリアを自分と調和したものにしていくんだと思う」

⇒イケダハヤトさんの言葉を借りるなら「義憤」というやつだ。
問題意識(イシュー)についてとことん追求して、それに自らの働き方をシンクロさせていく。

 

 

人間の成長、七つのステップ
  1. やりたいことが見えない段階
  2. できることをしながら、やりたいことを探す段階
  3. できることを、やりたいことに近づける段階
  4. やりたいことをやる段階
  5. やりたいことをやりながら、すべきことを探す段階
  6. やりたいことを、すべきことに近づける段階
  7. すべきことをする段階 

⇒随分前に読んだ渡邉正裕氏も同じようなことを言っていた。

段階をこの順番として据えてはいなかったが。
詳細は省略するので、本でこのステップの説明と順番の理由は解読してください。

 

 

「(中略)驚くためには、それなりの知識が必要なんだよ。知識がなければ、アブダクションのはじめの一歩すら踏み出せない。」 

アブダクションは、思考法の1つ。

演繹法帰納法は一般的な名詞でもあるが、第3の思考法として、「アブダクション(仮説的推論法)」としてアメリカの論理学者チャールズ・サンダース・パースが位置づけた。大学で論理学を教養課程で学んでいた時にも勉強した。その時には”広義の”帰納法だ、と習ったのだけれども。。ここでその厳密な線引きや定義の異なりを議論するつもりはないが、要は「事実Aを説明するのに、仮説Bを用いると、事実Aの存在・正確性が説明できる。よって、きっと仮説Bは真だ。」という思考プロセス。本書で氏が用いている背景としてはこれを踏まえて、こう言っている。

  • 驚くべき事実Cを見つける。
  • でも、説明仮説Hが成り立てば、Cは驚くに値しない。
  • だから、説明仮説Hが正しいか、検証してみる。

本書の文脈としてはビジネススクール経営学について学ぶことの意味付けをアブダクションを通して鍛える、ということで説明に用いている。

でもこれって、もっと拡張して”学ぶ”・”学び続ける”ということにおいても重要な考え方だなとおもう。

 

例えば、新しいサービスを作ったり、既存の商品を改良するにも、「驚く」ための知識や視点が必要。

そこから、「もしかして、これはこうするともっといいものになるのでは・・・」 「これって、現状こうだから、問題かもしれない・・・」などという仮説が生まれる。

 

でも、今眼の前にある事実を目に止めるほどの知識や視点が不足していると、いつも見ている当たり前のものとして見過ごす可能性が高い。

 

それはつまり、新しい学びや新しいチャンスを逃しているも同然である。

だから、自分はなにも知らない。

この単純な事実を自覚する。

そして、どんどん学ぶ。

 

 

「やってみないとわからない」
⇒ドキッとした。
本書では主人公であるAが著者の酒井氏に「新規事業をやりたいのに、経営層はやらせてくれない。」という気持ちを相談した際に、Aから漏れた言葉。
 
内容は異なっていても、結構こう考えることはあるんじゃないかな。
もちろん、気概としては必要だと思うし、自分はこう思いながら生きている。
その一方で冷静に意思決定、特に組織の中での意思決定に目線をやると、これは危険な幻想であると指摘する。
それをアナロジー的にサーフィンの世界選手権の例を用いている。
 
氏「(中略)サーフィンは?」
A「ありません。やってみたいと思ったことはありますが」
氏「サーフィンの世界選手権で、入賞できる?」
A「無理ですよ。(中略)まずは練習しないと。」
私は、「そこだよ」と、いったん話を止めた。
氏「そこまでわかっているのに、どうして新事業なら、きみは自分がやれると思うの?既存の事業ににいているところもあるだろうけど、やりたいと思っている新しい事業について土地勘があるわけじゃないんでしょ?ビジネスって、それこそ最近は、いきなり世界選手権だよね?」
A「でも、ビジネスについては、それなりに勉強したし、サーフィンみたいにまったくの素人というわけでもありません」
氏「僕がきみの会社の経営者だったら、きみに投資資金をかけるようなギャンブルをするよりも、新しい収益の軸になり得る商材に詳しい人を中途採用して部署を任せるよ。それか、いっそ、そうした商材を扱っている会社を買収するね」

 

意識的に俯瞰した目線、経営者目線で考えることがいまない仕事をつくっていく際に肝要だと思い知った。それこそ同じ話で自分がその道のスペシャリストとしてのキャリアがないので、余計に氏の最後の言葉はそこまで考え至る必要がある。

 

 

 

集中力【高】 傍観者(20%) 達成する人(10%)
集中力【低】 先延ばしにする人(30%) 忙殺される人(40%)
  エネルギー【低】 エネルギー【高】

氏「(中略)集中力もエネルギーも、どちらも、ほぼ百パーセント自分の意志で管理することができるのに対して、モチベーションには、自分ではどうしようもないことも影響するってところ」

「エネルギーは、生物としての人間を支える活力みたいなもので、心理的に前向きということだけじゃなくてストレスへの対処とか、健康状態といった身体面のことが含まれる。

A「でも、僕の問題になっている集中力は、どうすれば高めることができるんでしょうか」

氏「プロのスポーツ選手みたいな、トップアスリートのやり方に学ぶといいて言われるね。まずは、成功している自分を具体的にイメージすること。それと、アタックする問題の所在をしっかりと整理すること。そして一番大切なことが、個人的にコミットすることだって考えられている。」

⇒ごくごく当たり前のことなんだけど、モチベーションは環境要因も作用するが集中力とエネルギーは個の要因に依存しているということ。

 

キャリアを考える上でぜひ。